ひふみ体操

幼児教育の視点から見た日本の特徴的動きの遊びへの導入の効果

 日本人の伝統芸能の動きの中には「体幹」を使う動き、「丹田」「重心」、足腰の屈伸など、戦前において畳の生活の中では常時無意識のうちに日常の生活動作の中で行われていたものが多数存在します。
 一方、時代は和式の生活からフローリングの上での西洋式生活スタイルへの変容の中で、上記の示す動きや運動、所作(例、立位から正座位とその逆方向の一連動作、お辞儀、すり足歩き等)は意識的に日本の伝統芸能を試みようとしない限り私たちはなかなか体験できないものとなる時代になりました。
 こうした「非日常的動作」の日本的特徴をもつ動きと運動は、幼児が日常生活の中で多様な動きを経験しながら健やかな発達を遂げる過程の中では、特に、昨今必要と考えられる向きがあります。
 例えば、保育中において、単純な走りや跳躍の動作は見られても、一日の歩行距離自体の減少や公園における大型遊具の減少(ブランコのなわを取り去るなど)、足の屈伸の繰り返しや、様々な歩き方・走り方への挑戦など、大人の生活環境の変化から影響される子どもの生活動作の変化は時代とともに制限の多いものとなっていると考えられます。
 こうした傾向を持つ、最近の幼児にとって日本の伝統的な特徴の運動や動きを取り出して、日常の遊びの中で取り入れることは、幼児教育的視点からも大変有意義な運動および動きであることに着目しました。
 

対象年齢

1歳より何歳でも
 

ひふみ体操の特徴

日本の伝統的な動きを取り入れた運動に表現遊びをミックスした遊戯的体操
 

運動発達的視点からの導入課題

課題

具体例

1.  同側型(同じ側の手足の運動

シコを踏む ドスコイ

2.  正座、お辞儀

正しい姿勢の保持とメリハリ動作

3.  足を後ろに引く動作

剣を振り下しながら片足を引く

おすべりの動き

4.  片足ケンケン

走る動作 飛脚とび

 

表現的視点からの導入課題

  1. 節(歌詞)のリズムを口頭で口ずさみつつ、身体を表現する
    → 言葉と身体の動きの供応
  2. 日本的なリズムを体感する
    (例、「ドスコイ、ドスコイ」「ヤットン、ヤットン、ヤットントン」「エッサホイサホイサッサ」)
  3. 表現課題
    (例、お相撲さん、侍、着物の女の子、飛脚)の特徴的動きを把握し、なりきって 自分らしく動いたり、声を発してみる
    → 創作表現

 

到達目標

未満児

歌のリズムを聴いて、身体の一部を動かしたり、声でまねする

3歳児

リズムを口ずさみながら、振りをまねしてみる、好きな人物になって、台詞(せりふ)を言って動く

4歳児

一連の動きを口ずさんで動いてみる

同側運動(ドスコイ、片足ケンケン、おすべり)の動きに挑戦する

5歳児

一連の動きを歌とともに覚えて動いてみる

動きの規則(どちらの足を引くか等)やリズムの正確性に挑戦

コメント

小林寛道(スポーツ科学 東京大学名誉教授)

人間の動きの神経支配には、斜対側型と同側型があります。この体操には同側型の動きが取り入れられており、踊りや所作の基本となっているところが面白いと思います。

西川祐子(日本舞踊家)

子どもに教える時に音源をいつも考えています。まずは自分の声でメロディー、リズムが伝えられるのが良いと思います。

松木正子(小学校教育 前十文字女子学園教授・元お茶の水女子大学附属小学校教諭)

動きを説明することばが子供の心に届くように工夫されています。繰り返し唱え、動きを楽しむうちに表現する言葉として体にしみこんでいくのでしょう。「和」の生活を身近にするきっかけになる事でしょう。

佐々木玲子(体育 慶應義塾大学教授)

幅広い年齢の子どもが楽しく動ける体操だと思います。4番以降もっと沢山増やしていくと良いと思います。

高橋佳子(バレエ 竹早教員保育士養成所)

調子がのってくると学生もノリノリになりそうです。打楽器と一緒に、役柄を決めて、役を交代交代でやると楽しくなるかもしれません。

高久保勲(足利市民文化友の会会長 高等学校元副校長・国語教諭)

日本の伝統的なリズムや動きを取り入れて、遊びの中で心身の発達をうながす画期的な幼児の体操・表現遊びだと思います。近年の「和」の生活様式が失われていく中、楽しみながら正座、座礼、すり足など大切な所作を支える「体幹」を使う運動は、大変意義のあるものです。